top of page


でこぼこと。
「なぁ、お前緋音だろ」
ガン、という耳障りな金属音とともにすぐ傍の壁に打ち込まれたパイプ。 聞いているだけで腹が立ちそうな薄ら笑いを溶かした声で名前を呼ばれて、思わず目つきが悪くなるのを感じる。
「…あ?誰だよてめぇ」
今日ぐらいは――高校の入学式である今日ぐらいは大人しくしていようと思っていたが、やめた。 俺は短気なんだ、と舌打ちとともに振り返れば、先ほど真横に打ち込まれた鉄パイプがすぐ目の前に迫っていた。
「避けられるでしょお」
そんな確信めいたものを声に滲ませて殴りかかってくる、高い痩身。
(手ェ抜きやがって……)
あっさりと危なげなく避けて、正当防衛だな、と呟く。そのまま床に指を滑らせて、相手の頭を目掛け足を振り上げた。
もちろん手(この場合は足だが)は抜いていない。抜いていないのに――。
「……はぁ?」
勢いをつけた俺の足は避けられるでもなく掴まれるでもなく、そのまま相手の首元へと収まった。
「ウンウン、意外と重いじゃん?」
しかも薄ら笑いを浮かべているようにさえ見える。
「嘘だろおい……」
自慢じゃないが俺の蹴りはそこまで軽くはない。それなのにその蹴りを首に食らってなお立っていられるなんて全く意味が分からない。そんな人間がいたら名前ぐらい聞いたことがあるはずなのに……。
「あは、考えてる顔馬鹿丸出し~」
「うるせえなモヤシ野郎」
「……上等だよチビ猿」
「誰がチビだこのクソモヤシ!!」
猿は否定しないんだ、なんてことは置いといて。
「「……殺す!!!!!!!」」
これが高校入学一日目、もっと言ってしまえば高校の門を潜ってから一時間以内のできごとだった。
このあとお互いにボロボロになって体力が尽きた後も声が嗄れるまで罵り合ったのだが、それはまた別の話。
bottom of page